バロック時代の音楽では、特にフランスでイネガル(不均等)奏法という習慣がありました。楽譜上で均等に書かれているリズムを不均等に演奏します。
呼吸のリズムは、吸うと拍の比率は、起きている時で1:1、寝ている時はおよそ1:2に近くなります。心臓リズムも1:2ですね。このような身体的な体験が基盤にあって、それが前者は2拍子、後者は3拍子というふうに、偶数拍子と奇数拍子に分岐してゆくのでしょう。
ただ〈音楽〉として分節されたこのようなリズムは人口的なもので、実際の呼吸は1:1と1:2の間で無数に可能な 、より微妙な比率で分割されたリズムで膨張と収縮が繰り返されているのが自然です。
イネガル奏法は、人口的に分割された音価にこのような身体性から生じる自然な揺らぎを与えるものと考えられるでしょう。例えば連続した二つの8分音符を1:1ではなく、2:1に近い比率で弾きます。どの程度の比率の揺らぎを与えるかは奏者の自由に任されており、そこに解釈の楽しみがあります。実際に同じ曲を別の演奏者で聴き比べてみると、だいぶ違いがあり、ほとんど3:1(いわゆる付点リズム)に近くまで揺らしている奏者もいます。
イネガル奏法を使うと、ジャズで言うスウィング感が出て、メロディーが歌うようになります。ただしこの時に音のグルーピングを間違えるとだいなしになります。表↓裏↑/表↓裏↑/では音楽の動きは生まれません。リズムは裏拍から始まります。裏↑/表↓裏↑/表↓裏↑/表↓です。表裏ではなく、ウラオモテのある人になりましょう!
フランスのラモーの曲はイネガル奏法をたくさん使えるので、ぜひ挑戦してみて下さい。優雅で美しく、また楽しい曲が多く、私も一時期ハマり、全48曲を録音したことがありますこの音声もその時のものです。(その他もYouTubeチャンネルで聴けます。)
完全にノーペダルで弾いていますが、音価を不均等に弾くこと音に流れが出て繋がっているように聴こえると思います。私の趣味としてイネガルの揺らぎの量は基本的に少な目で、フレーズの形などによってたまに強めになるという程度にしています。
ちなみにバッハの曲にイネガル奏法を使うとドイツ語のリズムには合わないのか、違和感がありますが、それでも表面上はわからない程、身体の中だけでイネガルなリズムを感じて弾くと、それだけでスウィング感が出るようです。また別の時代区分の曲でも使える場合があるように思います。色々と試してみると良いでしょう。