身体と音のつながりを育てる

音楽とは音によって作り出される動きの感覚のことです。音楽の中の音符は、それ自体は動いてはいませんが、音符の並びが実際の音として時の経過の中で鳴り響く時、私たちはあたかも何らかの物体が空間において動いているかのような〈動きの錯覚 〉を受け取ります。音楽はこの〈動きの錯覚〉を生み出す能力によって、聴く人の身体を動かしたり、感情を動かしたりすることができます。

 では楽譜の音符をただ鳴らせば誰でも自動的にそのような〈動きの錯覚〉を生み出せるのかと言えば、そうもいかないのが難しいところです。音を出す演奏者が楽曲に内在している運動を自分の身体運動として感じながら音を出すのでなければ、聴く人の中にその運動感覚(錯覚)を生み出すことはできません。

 演奏に必要な身体の動きには二種類あります。ひとつは今言った、楽曲構造に内在する音の運動を身体内部の動きとして写し取ったもので、これを〈内的運動〉と呼ぶことができます。これはどちらかと言えば内臓や筋肉の動き、気の流れなど、身体内部で生じる動きです。もうひとつは指や腕の動きなどの楽器で音を出すのに必要な、外からも観察可能な動作で、これを〈外的運動〉と呼ぶことができます。

 この内的運動と外的運動は必ずしも一致しないことが多く、一見矛盾するふたつの動作を本人には完全に一つの動きとして感じられるほどに、いかにコーディネートし行うか、そこに演奏という行為の複雑さがあります。 

 でも二つの矛盾する動きを同時に行うなんて可能なのでしょうか? 簡単な実験をしてみましょう。机の上に腕を乗せ、肘からから90度まげて腕を立てます。その感覚を覚えておきます。今度は腕を机の上に乗せたまま、透明な見えない腕だけが90度曲がって立ち上がるようにイメージします(幽体離脱のように!)。できますね?                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

 このように必ずしも一致しない内的運動と外的運動をひとつの身体で再現しながら音を出すことは、生き生きとした運動性を湛えた音を生み出すのに必要です。そしてそのためには楽譜の音符から運動を読み取る能力や、それらを感じ取る身体知が前提となります。音楽分析の知識や体操などを組み合わせて総合的にアプローチすることで、これらのスキルが身についてゆくでしょう。

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